「海じゃ!海行くでな!」

こっちが気ままにソファーに寝転びながら本を呼んでたらコレだ
もう、馴れたが

「海!ほら行くぞぉ零児!」
「人の部屋にノックもしないで入っといてそれはないだろ」
「ノックじゃと?コンコンっと、ほれやったぞ」
(今やるのかこいつは)

ドアの隅をコンコンと叩き海じゃー、と騒ぎだした

「海?今からか?」

時計は五時を過ぎていた
もう夕方だ

「今からじゃ!ホレ早くせい!先輩命令じゃぞ!」
「ったく、なんでもっと早く言わなかったんだ」
「今行きたくなったから」
「子供か、おまえは。ほら行くなら行くぞ」
「やったー!」
「横浜でいいな?近いし」

言葉を言い終わらないうちに小牟部屋から出ていく
小牟の言うことを何だかんだで聞いている自分はやっぱり甘いんだろう












「うおぉぉぉぉぉぉぉー!海じゃぁぁぁぁぁぁー!」
「奇声を発するんじゃない、小牟」
「海じゃぞ!毎日渋谷の見回りばっかりしててコンクリート地獄の餌食になっとるんじゃぞ!少しは喜ばんか!」
「はいはい、わかったから落ち着け」

運転してきた車から降りたらすぐ、小牟は猛ダッシュで海に向かっていった

「小牟!サンダルは脱げよ?」
「なっ!わしはそこまで馬鹿ちゃうわ!」

うっひょー!
某エロガキのような叫び声で海に入った行ったのを見、木の影に腰掛ける
子供を見守る保護者みたいな

「こらー!」
「………は?」
「ぬし、何故来ぬのじゃー!」
「子供じゃあるまいし」
「何じゃとー!懲らしめたるわ!若造め!」

ぷんぷんと効果音付きで海からあがってくる

「はーいそんなむっつり零児君にプレゼント!」
「は?………うっ!」

してやったり
チャイナドレスの下から水鉄砲ばーん
顔面にヒット
(一瞬銀だと思ったのは秘密)

「……おまえ、コレがしたかっただけだろ」
「正解じゃ、よくわかったの」
「わかるさ、これだけ長くいれば………な!」

反撃スタート!
金(実弾)発射
小牟の頬すれすれを通りすぎた

「………バカカオヌシ」
「びびり過ぎだ。俺がおまえにあてるわけないだろ」
「水鉄砲にせい、せめて。つか武器置いてこんかい」
「他のは無いぞ。ホルダーにたまたま入れっぱなしだっただけだ」
木の影から立ちあがり長年の相棒を見る
……きらきら目が輝いていて嫌な予感がする

「お?やっとわしを構う気になったな」
「たった今小牟の顔を見るまで、な」
「なんじゃ、連れぬ奴じゃな。とりあえず金を車に置いてこんかい危ない」
「了解」







全く子供じゃあるまいに
なんでこんな、こんな

「水浸しってどういう事だ、おい」
「いやーわしもわからんでな」

浅いところで足だけ水のなか→大きい波→バッシャーン
つまりびしょびしょ

「おまえに構うと何が起こるか本当わからんな」
「わしもわからんなんじゃあの馬鹿デカイ波は!」
(金置いてきてよかった)
「タオル持ってくるから待ってろ」
「あいあいさーじゃ」

小走りで車に戻る
タオルが確か後部座席に………あった
二つ掴みまた小走りで小牟のところに戻る
一枚を自分の頭に被せ、小牟の頭を乱暴に拭く

「ったく、本当に子供みたいな事をするな、おまえ」
「あんま子供連呼するとわしキレるぞ。わしは700を超える仙狐じゃぞ!控えぃ!」
「煩い、じっとしてろ」
「………最近ツッコミキツくないか?わしの気のせいなのか?」
「意味が解らん。」

小牟の首にタオルを掛け、自分の頭を拭く
水滴が砂浜を濡らしていた

「うー、もう海は嫌いじゃー」
「そうか……もう日が暮れる。帰ろう」
「そう…じゃな。満足じゃ。楽しかったじゃろ?」
「………ああ。」
(……あ、今デレたの。)

はじめから気づいていた
海に行こうといきなり言いだしたのは小牟なりの気遣いだ
過去にも何回も何十回もあった
そして最後に楽しかっただろう、と
久々の休暇だった
存分に遊び倒してどうせ明日寝坊するのだろう
水平線に日が落ちていった






こうして俺達のたった一日の夏休みが終わった