わたくしは見ていました

あなたを
あなたのしていることを







最後の偶像がエモン一行の目の前で砕け散った

あの人が巨像を倒したと、直感的に感じた
死したわたくしが云うのは可笑しいかもしれない
でも、感じたのだ



雲を歩くような、水面を走るような
そんな感覚の世界でわたくしは存在していた
其処から叫ぼうと、手を伸ばそうと
伝えられないと、触れられないと
知ってる

でも、でも






わたくしは、
見ていたのです
あなたのしていることを

嬉しいようで哀しかった
涙がでるようで、乾ききっていた

わたくしの白く美しい死装束が風に舞う
エモンがわたくしに語り掛けるように
言葉を紡ぐ

わたくしは知っいてる
この男がこの後、何をするか
何をしようとしているかを


ああ、来た
あの人だ

早くお逃げください
早く

あなたは何も解っていない
わたくしの何も解っていない
あなたに生きていてほしかった


雲を歩くような、水面を走るような
そんな世界からわたくしは語り掛ける

でも、その声も
届かないのでしょうか


あの人に与えられた最後の一撃
わたくしは動かぬ体で見ていました


あの人の体から、忌まわしい黒い血が溢れる
あの人の胸に刺さった剣から、溢れる


苦しそうにわたくしがいる祭壇を見上げた
今思うとわたくしはあの人を見上げてばかりだったと思う
あの人は背が高かった
見上げられるのは、はじめて


あの人はわたくしに手を伸ばした
わたくしも伸ばした
あの人に届かなくてもいいと思った
あの人の温もりが
優しさが忘れられない



手のひらに、わたくしの心に
あの人の手が、あの人の心が
触れた 気がした






でもそれはどうせ
わたくしの身勝手な想いが生み出した想像にすぎないのだろう



無常にも、はたりとあの人の大きな手は地面に落ちた